どうしよう
私は大好きな人に陰謀論を熱弁されたら、その人を大好きなままでいられる自信がない
そして、それを機にその人から距離を置こうとするであろう自分に耐えられない
別に何があったわけではない
ただの全力の杞憂だ
新型コロナウイルスの流行を機に、この類のことを考えるようになった
「ワクチンは毒」「マスクは意味ない」「コロナはデマ」
何度Twitterでこの手のツイートを目にしたかわからない
目にした、というか自分で目にしにいった
怖いもの見たさだ
彼らは真剣に、私たちに訴える
洗脳されている、目を覚まして、と
こっちのセリフだよ、と言いたくなるが、あっちからしてもあっちのセリフなわけで
違う世界線で生きていることをまざまざと見せつけられる
私は医学の知識なんてまるでない(生物が嫌だったから物理を選択した)
でも、インターネットでわんさか出てくる「その手」の情報よりも、新聞やテレビの情報の方が信憑性が高いと思うし、Twitterで出回ってる統計データのガバガバさはなかなかに目に余る
胡散臭いネット民がそれっぽい言葉をそれっぽく並べて、ホイホイたくさんの人を釣っている様子は、本当に見ていて苦しくなる
でも、あちら側からすれば、私たちの方が見るに耐えないのだろうなと思う
気持ち悪い奴らだと、心底軽蔑しているだろう
情報に踊らされて、操られている愚かな人々だと思われている
前澤社長が宇宙に行った
彼のもとにも、「その手」の人々が集まっているらしい
宇宙なんて嘘っていう説もあるそうですね
たしかに、天動説も地動説も、宇宙に行ったことがない私からすればどっちが本当なのかなんてわからない てか、宇宙に行っても多分わからん
教科書で習ったし、宇宙の映像も見た
地球が青いって言ったんでしょ
でも、全部嘘かもしれないって
人類、月に行ったことないかもしれないんでしょ
全部捏造って
地球が丸いっていうのも捏造ですか?
私の周りにはそういう別の世界線を生きる人はいない
でも、ふと考える
大好きな人に「目を覚まして!」と言われたら、私は一体どうすればいいんだろう
全部嘘だと言われて、よくわからない単語をつらつらと並べられて、「自分で調べたらわかるんだよ」って
私が必死で集めた論文からデータを引っ張ってきて彼らに説明しても、無駄なんだろうなと思う
どんなに情報を並べても彼らには何の意味も持たない
あっちの世界で全て完結しているのだから、こっちの世界のことを話してもそれはあちらの世界では無駄なピースなんだ
私たちは完全に情報を精査することなんてできない
「人類は月になど行っていない!あの映像はデタラメだ!」という太郎くんに、月に行ったことのない私が何を言える?
あぁ、本当に私は、太郎くんが陰謀論を唱えるから、という理由だけで太郎くんのことを嫌いになってしまうのか
私の太郎くんへの思いはそんな程度のものだったのか
彼の「目を覚まして!」の一言で、あの日の帰り道に食べたアイスクリームの味も、あの日のくだらない2時間の泣き笑いも、全部消え去ってしまうのか
彼が陰謀論を信じることそのものだけが問題なのではない
彼が陰謀論を唱えながら、内心で私を「騙されている愚かな人」だと平気で考えていることに私は絶望するのである
彼は、彼が内心では私を見下している、など微塵も思っていないだろう
太郎は「真実を知らない人」を、洗脳から解放してあげたい、救いたいと本気で思っている
なんて健気なんだ
あと何人の人がそんな正義感を元に行動できるだろうか
私だったらそんなことしない
わざわざ手を差し伸べたりなんか絶対にしない
可哀想な人たちだなぁと、見下し、見捨てるだろう
でも、太郎はそんなことは決してしない
私を「真実を教えるに値する人」「騙されたままでいてほしくない人」と思ってくれているのだ
ありがとう
でも私の目に映る彼は、どこからどう見ても彼と私の「真実の伝道師」と「無知の愚民」という構図を楽しんでいる
そして、そのように捉えてしまう自分に耐えられない
彼に素直にありがとうと言い、私も素直に「真実」を知ることができたらなんて幸せだろう
私は彼を軽蔑し、私も彼を軽蔑し、一生分かり合えないと距離を置くより遥かに幸せだろう
私は、本当に太郎と相容れないのだろうか
本当にもう二度と、彼とはパピコを分け合えないのであろうか
冷凍庫に、半年前に発売されたピスタチオ味のパピコが、まだ眠っている
※全て妄想です
「普通に考えたら」の便利さよ